これまでの歩み
-新人時代の思い出を教えてください。
新人時代は失敗ばかりで、急変した患者様を目の前にして何もできない自分がとても悔しかった思い出があります。先輩から厳しい指導を受けることも多く、悩んだ時期もありましたが、患者様やご家族との関わりの中で癒され、今日まで看護師を続けることができています。
仕事で壁にぶつかっても、患者様から「今日も来てくれたのね。元気が出る」と言っていただけたり、ご家族から感謝の手紙をいただいたりするたびに、もっと成長しなくては!と、自分を奮い立たせてきました。
-印象に残っている患者様とのエピソードはありますか?
お団子が大好物という患者様が入院されていた時、面会に訪れたご家族から、どうしても本人にお団子を食べさせたいと相談されたことがありました。ご本人とご家族の希望に応えてあげたいけれど、のどに詰まりやすい食べ物だから断るべきか、患者様の自由と医療安全のはざまで、すごく悩んだ記憶があります。
でも、ほんの少しだけという約束でお団子を召し上がっていただくと、ご本人もご家族も本当に嬉しそうな表情をされました。ただ、やはりむせてしまって、あわてて対応に入ったんですよね。患者様は満面の笑顔でお団子を召し上がっていたので、むせてしまってもご家族からは感謝されましたが、反省と後悔が残る体験でした。
どうしたら患者様やご家族にとって幸せな結果になるのか、高齢者医療に携わっていると、よくそんなことを考える場面に遭遇します。私は、患者様の意思や尊厳を尊重したい、患者様やご家族を笑顔にしたいという想いから、臨床倫理についてスタッフたちと話し合う機会を持つようになりました。
-看護総師長として、臨床倫理に関する教育に積極的に取り組んでいるそうですね。
ええ。教育委員会が主催する研修のほかに、私が講師となって虐待防止や暴力・ハラスメント対策などに関する勉強会を開くことも多いです。超高齢社会の今、医療現場・介護現場での虐待行為は大きな社会問題になっていますから、患者様を守るためにも職員を守るためにも、不適切なケアの改善・予防策を日々検討しています。
例えば、認知症患者様への透析治療について、どうしたら週3回・1回4時間の透析を落ち着いて受けていただけるかと、みんなで話し合うわけです。認知症を抱えていると、長時間安静を保つことが難しい方、透析室にお連れするだけで拒否反応を示す方などが少なくありません。だから当院では、病棟の1室に透析スペースをつくり、患者様と病棟内をお散歩する中で、「ちょっとこちらで休憩していきませんか?」と声をかけて、できる限り自然に透析室へ誘導しています。そして、治療中も気心の知れた病棟看護師が見守り、自己抜針などを行わないように寄り添っています。
認知症と内科合併症を同時に診察し、透析を必要とする認知症患者様の受け入れを行える病院は、埼玉県内では当院のみ、国内でも数少ない存在です。一般的な透析医療機関では、認知症が重度の場合は治療を断る場合もありますから、そのような患者様が当院に入院されることもあります。