精神科病院は閉鎖的で入院期間が長いイメージがあるかもしれませんが、近年ではオープンな環境を整えて早期退院を促す病院も増えています。「久喜すずのき病院」でも、明るく開放感のある病院づくりを進め、多職種が一丸となって早期治療・早期退院を実現しているそうです。3カ月以内の退院を目標にハイレベルな基準を満たす「精神科救急病棟」を5つ持ち、全国屈指の精神科救急医療体制を整えているらしいので、さっそく見学に行って働く魅力を見つけてきます。
- 形 態
- 精神科病院
- 所在地
- 埼玉県久喜市/久喜駅
- 病床数
- 442床
玄関
「久喜すずのき病院」へのアクセスは、「久喜駅」西口と病院を結ぶ無料送迎バスが便利で、5分ほどで病院に到着します。敷地内には広い職員用駐車場も完備されているので、マイカー通勤者も多いとのこと。感染対策が徹底されたエントランスロビーで迎えてくれたのは、看護部門のトップであるゼネラルマネージャーの石川さん。看護部では、管理職の呼称をマネージャー、チーフ、サブチーフとしているそうです。
外来棟
まずは、2018年に拡張リニューアルした外来棟へ。とても広い空間ですね。「外来患者数も救急搬送の受け入れ件数も年々増えているので、リニューアル工事で従来の2倍以上のスペースを確保し、10診体制(救急外来含む)で対応しています。当院には精神科医が30名以上在籍していて、物忘れ外来・女性外来・脳神経内科外来などの専門外来も充実しているんですよ」と、石川さん。外来患者数は県内随一とのこと。
精神科救急病棟
お次は、「精神科救急病棟」を案内していただきました。どんな特徴の病棟なんですか?「一番の特徴は、24時間365日体制で救急患者様を受け入れ、短期集中治療で早期退院に導く関わりをしていることで、入院患者様の6割以上が3カ月以内に退院しています。また、看護師の配置基準が10:1と、他の病棟よりも手厚く、病室の半分以上が個室で、患者様一人ひとりとじっくり向き合える環境も整えています」。
スタッフステーション
スタッフステーションに伺うと、多職種カンファレンスが行われていました。「疾患別のクリ二カルパス(治療計画)を導入し、各病棟で週に一度のパスカンファレンスを行っています。医師・看護師・作業療法士・精神保健福祉士・臨床心理士・薬剤師・管理栄養士などが参加し、治療・生活・退院後の課題などを話し合っていて、スムーズな退院を支えるために、各職種が患者様への退院指導勉強会なども開催しています」と、皆さん。
精神科救急病棟
つづいて、新人看護師さんの指導の様子を見学させていただきました。「新卒者にも中途入職者にもプリセプターの先輩が付き、チェックリストを活用しながら、こんなふうにマンツーマンのOJTを行っています。精神科未経験の方でも安心して働けるように、基礎から丁寧な指導を行っていて、教育委員会による新人研修や、医師・認定看護師による専門講義も充実させているんですよ」と、石川さん。
研修室
研修室を覗くと、CVPPP(包括的暴力防止プログラム)トレーナーの資格を持つ看護師さん(写真右から2番目)による研修が行われていました。「当院ではCVPPP委員会を発足し、不穏・興奮状態にある患者様の尊厳を守り、安全性を確保しながら適切なケアにあたるための訓練を積んでいます。行動制限最小化にも取り組み、患者様にもスタッフにも安心・安全な環境づくりを進めています」と、CVPPPトレーナーさん。
中庭
お次は、中庭で精神科認定看護師さんたちを紹介していただきました。「看護部には4名の精神科認定看護師が在籍していて(2023年1月)、定期的に全員で集まり、院内ラウンドや講義の日程を決めたり、院外での講演活動の内容を伝達し合ったりしています。当院は資格取得支援が手厚く、研修参加のためのシフト調整、研修費用の負担、研修中の基本給の支給、取得後の活躍の場の提供などのサポートが受けられるんです」と、皆さん。
認知症治療病棟
認知症治療病棟に行くと、ケアワーカーの皆さんが集まってくれました。「ケアワーカーの主な仕事内容は身体介護や環境整備で、看護師と連携しながら入院患者様の生活を支援しています。無資格・未経験OKなので、介護の仕事に初めて携わるスタッフも多く、外国人スタッフも複数名活躍しているんですよ」と、皆さん。資格手当があり、働きながら介護福祉士資格を取得している方も多いんだとか。
電気痙攣療法室
つづいて、ECT(電気痙攣療法)室を案内していただきました。「当院では修正型電気痙攣療法(m-ECT)を導入し、麻酔科医・精神科医・看護師が連携してECT治療を施行しています。また、2022年にはクロザピンを処方できる医療機関となり、治療抵抗性統合失調症に対する入院治療・専門外来にも対応しているんです」。各種専門療法を充実させるために、新しい取り組みも積極的に導入してるんだとか。
新人研修の様子
新人研修が行われていました。学びも業務の一環として捉え、院内研修は勤務時間内に行うことが多いそうです。「1年間にわたる新人研修は全職種合同のテーマも充実させて、多職種連携教育を重視しています。今後は、入職2年目以降も目標に向かって継続的な学びができるようにクリニカルラダーを構築し、継続教育をより強化する方針です」と、石川さん。
訪問看護ステーション
病院を出て、関連施設の「訪問看護ステーション」へ。「退院後のサポートは、訪問看護師にバトンタッチ。介入ニーズが多いので、2019年には事業所の数を増やし、対応エリアも久喜市内だけでなく、さいたま市・羽生市・古河市方面まで拡大して、病院から訪問看護事業所への異動希望者も募っています」と、石川さん。関連施設のデイケア・クリニックに異動したい際も、相談に乗ってもらえるそうです。
高齢者デイケア それいゆ
歩いてすぐの場所には、高齢者デイケア「それいゆ」がありました。「早期退院をしても患者様やご家族が不安を感じないように、退院後の生活を支える施設を充実させて、病院と密な連携体制を築いています。訪問看護ステーションや高齢者デイケアの他にも、精神科デイケア・クリニック、グループホーム、地域生活支援センターなどがあるんですよ」と、石川さん。
保育室
近くの保育室に行き、保育士さんとママさん看護師さん(写真左)を紹介していただきました。「保育料は1日500円とリーズナブルで、毎日のお散歩や季節行事も充実しています。子どもが小さいうちは日勤常勤・時短勤務・パート勤務を選ぶこともできて、残業がほとんどなく、日勤はゆっくり9時スタートなので、看護部には子育て中のママ・パパがとても多いです」と、ママさん看護師。今日はありがとうございました。
帰り道
――お疲れさまでした。早期回復・早期退院を実現する精神科病院、いかがでしたか?
- うわさ通り、院内は明るくオープンな雰囲気で、リニューアル工事を重ねながら快適な病院づくりが進められていました。疾患別のクリニカルパスに基づき、多職種チームで在宅復帰支援に取り組んでいて、多様な関連施設が退院後の生活まで支えていましたよ。
――精神科救急病棟はどうでしたか?
- 全部で9病棟あるうち、5つが精神科救急病棟の認可を得て、患者様の早期退院に向けて取り組んでいました。「精神科救急病棟」と聞くと、忙しい職場環境を想像するかもしれませんが、人員配置が手厚く、空間にも余裕があり、患者様とじっくり向き合える環境が整っていました。食事や入浴介助専門のパート職員も採用しているので、残業はほとんど発生していないそうです。
――では、ここはちょっと、という点は?
- 精神科に興味があり、キャリア目標に向かって勉強に励むスタッフさんが多いので、向上心がないと温度差を感じるかもしれません。看護部には、精神科認定看護師をはじめ、CVPPPトレーナー、災害派遣精神医療チーム(DPAT)隊員など、多様な有資格者が活躍しています。
――最後に、ここだけの話をひとつお願いします
- 「救急病棟」というワードからハードな職場を想像してしまいますが、重症例ばかりを受け入れているわけではないそうです。残業も少なく、定時に退勤できる日が多いので、家庭やプライベートを充実させいているスタッフさんが多かったです。
精神科救急病棟のある病院で、精神科の最前線を学びたい方
育児をしながら、精神科のエキスパートナースを目指したい方