-新人時代の思い出を教えてください。
はじめて働いた職場は大学病院の外科病棟で、看護学校で教えられた「患者様中心の看護」を実践しようと理想に燃えていたものの、当時の現場は「患者様中心の看護」が実践できる体制が十分ではなく、看護計画が立案されないままケアを行う状況で、現実とのギャップに悶々とする日々を送っていた記憶があります。
ですが、同じ志を持つ先輩や同僚との交流があったおかげで、少しでも患者様のためにと、前向きな考えを持って頑張ることができました。「理想と現実とのギャップ」はいつの時代の新人にもあるのでしょうが、励まし合える同志がいるかいないかで、状況は大きく変わると思います。
-印象に残っている患者様とのエピソードはありますか?
数多くのことがあり、ひとつに絞るのは難しいですが、重い病気を受け入れ、病気と共に自分らしく生きようとする患者様からたくさんのことを学ばせていただきました。私は外科系の部署の勤務が長かったので、がん患者様と関わることも多く、後悔しない生き方を支える看護について、日々考えてきました。
昔はがん患者様への病名告知が一般的ではなく、私たち医療従事者は「腫瘍」や「できもの」などと表現していたのですが、自ら予後を悟って生き方を見つめ直す患者様もいらっしゃいました。治療やケアを拒否し、ご家族に感情をぶつけていたある患者さんが、ご自分に残された時間が少ないことに気付くと、病気を受け入れ、その残された時間を大切な家族と一緒に過ごしたいと、ご自宅に帰る決断をされました。思いを聴き退院に向けての準備をお手伝いしたことが、思い出に残っています。
今の若い方は、「患者様本人にがんの告知をしないなんて…」と驚かれるかもしれませんが、医療の現場で「患者様の知る権利」が浸透してきたのは1990年代です。最近では、人生の最終段階の医療・ケアについて話し合うACP(アドバンス・ケア・プランニング)が推進されるようになり、時代は変わったなぁと感じます。ぜひ当院の看護師には、患者様本人が意思決定できるような支援を心がけてほしいです。
-管理の道に興味を持ったきっかけは何ですか?
ずっと大学病院で働いてきたので、自ら管理職を望んだというより、大きな組織の人事に従ったという感じです(笑)。でも、はじめて師長を経験した脳外科病棟のスタッフ達は、素晴らしい看護を実践するチームに成長してくれて、そこで初めて人を育てるやりがいや管理の面白さに気付かされました。
支え合い・学び合い・高め合えるチームに出会った経験は、私の看護師人生の大きな転機となり、認定看護管理者の資格を取って副看護部長や看護部長も経験しました。当院の師長や主任たちにも看護管理職の魅力を伝えたくて、認定看護管理者教育課程ファーストレベルやセカンドレベルの研修を受講してもらっています。